復興の創造

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復興の創造

9/11からのニューヨークの価値観とアプローチ

デヴィット・マメン
(David Mammen)

序文・訳: 林春男

日本語

発売日: 2012年7月1日

ソフトカバー: A5, 270ページ

ISBN: 978-4434162527

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¥2,000

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序 文
歴史の中には、その前後で、世界を完全に変えてしまうような瞬間がある。その出来事の前に起こったことだったか、後のことかで区別して物音が認識される節目である。9/11は、アメリカ合衆国だけでなく、全世界にとってまさにそのような出来事だった。この書には、9/11の攻撃とツインタワー崩壊の後に起こった、ワールド・トレード・センターならびにその周辺のロウアーマンハッタンで起きた出来事が記されている。この書はテロについて述べたものではない。ワールド・トレード・センターでの災害について述べているだけで、国防総省やユナイテッド93便の事象については、触れていない。
世界各地で発生する災害を見てきて感じることは、当事者がその災害の真の意味を理解することの困難さである。なぜなら、当事者は災害の渦中にいるからだ。しかし、この困難さは克服されなければならない。なぜなら、実際の体験に基づいて、目撃したことを他の地域や後世の人々に提供することは、同時代人の特権であり、責任でもあるからだ。当事者は事象の全体像について、論理的かつ合理的な情報を提供しなければならない。また、今後、再発の可能性がある要因については、その事象から学んだ教訓にも注目しなければならない。復興の全体像をとらえるためには、デイヴィッド・ホックニーが手掛けるコラージュのように、多くの視点をつなぎ合わせることが必要不可欠だ。そこで起こったさまざまな事実を、筋道をたてて、再現していくのは、膨大な作業だ。デイヴ・マメンは、鋭く公平な観察力で、その作業を行いこの一冊に結実させた。
私は、9/11以降、毎年、同僚や学生と共にグランド・ゼロを訪れ、復興の進み具合を確認してきた。この10年間、ワールド・トレード・センターでの再建は、遅いように感じられた。デイヴ・マメンは、毎年、進捗状況や、表面的には現れてこない状況の推移について説明をしてくれた。その説明がなければ、外部から訪れた者が、ワールド・トレード・センターの内外で、一体何が起こっているのかを理解するのは困難であっただろう。彼の説明を聞くことで、我々は、複雑な復興過程に関わるさまざまな要因を知ることができた。都市部での捜索・救援活動、ガレキの撤去、土地利用計画、追悼、経済発展、健康問題、そして2009年の経済危機が与えた打撃などがその例だ。
デイヴが情報の編集を始めたころ、私に「誰に向けて書いていけばいいのだろう?」と尋ねたことがある。私は、「東京都知事、そして都庁の職員、学生、また、家族の世話をしている主婦、そして郊外に住む私の母親に」と答えた。その目的は、達成された思う。彼は、日本での豊富な経験から、日本の読者が共鳴できる問題やテーマをよく認識している。日本では、中央政府の力が強く、地方自治体が持つ権限は少ない。デイヴは、本書の中で、ニューヨークの復興が、連邦政府、ニューヨーク州、そしてニューヨーク市の強い連携によって、いかに創造されたかを詳しく述べている。日本でも、市民参加、NPO組織の重要性が増しているものの、まだその力は弱い。デイヴは、ニューヨークの復興を形成していく上で、市民参加が、いかに大きな力になったかを明らかにしている。また日本では、通常、以前の状態を再建する災害復旧が求められてきたのに対して、デイヴは、ワールド・トレード・センターの災害が、以前より、良いものを作り上げる機会として受け止められた様子を詳述している。デイヴは、ニューヨークの復興の取り組みの中で、災害発生時には、まだあまり理解されておらず、時間の経過と共に明らかになった問題―健康問題など―にも対応しなければならなかったことも盛り込んだ。彼によると、復興は手順に沿って処理されたものではなく、創り出されたものだという。私は、この発想は、どこでも、誰にも共感を売ることができる主張であると考える。
9/11からの復興は、先例のない取り組みで、その舞台は、高度に、かつ緊密に発展したビジネスの中心地だ。世界中の多くの大都市が、大規模な自然災害、もしくは意図的あるいは、意図的でない原因による人的災害にみまわれる可能性を抱えている。例えば、我々の研究では、今後30年以内に、首都圏でMw 7.0の直下型地震が発生する可能性が70%あることが明らかになっている。この地震が発生すれば、死者は11,000人にのぼり、被害総額は112兆円になると推定されている。東京のビジネス中心地は、9/11のロウアーマンハッタンと同じような甚大な被害を受けるというシナリオだ。
9/11から9年半となる2011年3月11日、Mw9.0の東日本大地震と津波が日本を襲った。この災害は、その後の福島の原発事故と合わせて、3/11と表現されることがある。15,000人以上が亡くなり、2011年7月下旬の段階でもまだ5,000人が行方不明のままだ。6,000人が負傷した。160,000棟の建物が全半壊の被害を受けた。およそ50万人が災害の影響で自宅を離れることを余儀なくされ、2011年7月下旬の段階で、まだ10万人が自宅に戻ることができない。長期的な復興の取り組みは、まだ始まったばかりだ。東日本大震災が発生したこと、そして東京に地震災害発生の可能性があることで、ワールド・トレード・センターの災害と復興の取り組みから学ぼうという私たちの思いはより強いものになった。教訓から学び、東京をはじめとする都市部を、より災害に強い街にしていきたいと思う。
私は、9/11から10年の節目に、復興の取り組みを、10年間にわたってくまなく研究し、しかも簡潔にまとめたこの書が、英語、日本語の両方で出版されることを大変うれしく思う。デイヴ・マメンが、この重要な出来事を目撃し、このプロジェクトにニューヨーカーとして、粘り強く献身的に関わったことに感謝し、敬意を表したい。

林 春男
巨大災害研究センター教授
京都大学防災研究所
2011年8月1日、京都にて

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Last updated on Apr. 22, 2024